山歩きをしていたら、道沿いにズラッとポンポン草が生えていた。
ポンポン草を見ると思い出すことがある。
家族で秩父に行ったときのことだ。
そのときはどこかに泊まるわけでもなく、どこかで遊んだわけでもなかった。ただ車を降りて、母と弟と3人であたりを少し散歩したことだけ覚えている。
そのとき母が、道に生えていたポンポン草を手にとって、幼い頃の遊びを教えてくれた。
大きめの葉を片方の手の中に丸めて、もう片方の手で上から叩く。
すると、ポン!と澄んだいい音が山中に響く。
私も弟も嬉しくて、すぐに葉を取ってやってみた。
音がうまく鳴らないと「もう一回教えて」と母を取り囲んだ。
「これくらいの、大きな葉っぱを選んでね」
「うん、それは良さそう」
ポン!ポン!
ポンポン草が気持ちよく鳴ると嬉しかった。
当時のことを思い出しながら歩く。
私たちが幼い頃、遊びを教えてくれるのはいつも父だった。母が幼い頃にどんなことをして遊んだかなんて全然知らなかった。どんなことを考え、感じていたかも知らなかった。
秩父の山道を歩きながら、母もこうして遊んでいたんだと知って嬉しかった。母の幼い頃の姿がほんの少し目に浮かぶようだった。
母はその遊びを誰に教わったんだろう。
どんなことを考えながらポンポン草の道を歩いたんだろう。
何十年かぶりにポンポン草の葉を丸めて叩いてみた。
2回目にポン!といい音がした。