時計屋さんのおじちゃんの話

最近、うちのお店の向かいにある時計屋さんのおじちゃんが奥さんとご飯を食べに来た。


おじちゃんはいつもどこか儚げな表情で、夕方うちのお店の外にあるベンチに座ってタバコを吸っている人だった。

軽く挨拶をするだけで言葉を交わしたことはなかったけど、ある日、同級生のおじちゃんが飲むのに付き合う感じでお店に来てから、とってもユーモアがあって、さりげない優しさを持ったカワイイおじちゃんだということがわかった。


そんな時計屋さんのおじちゃんはこの前、同級生のおじちゃんとうちのお店で飲んだ後、自宅で倒れて救急車で運ばれた。お店にいた私たちは騒然としたが、軽く頭を打っただけでその日のうちに家に帰ってきたらしい。

奥さんが話して聞かせてくれた。

「この人ね、『ここでは寝られないでしょ、上に上がって寝なきゃ』と言ったのに、『いやっ、オレは寝てないぞ!』とか言って。も〜、と思いながら目を離したら、すごい音がして。見に行くと木箱の上に倒れててね。木箱も割れているし、頭が『痛い…』って言うから、びっくりして」

同級生のおじちゃんも、違う日にお店に来て、時計屋さんのおじちゃんが救急車で運ばれたのを人づてに聞いて、本当にびっくりしたと話していた。「あいつな、いつもはすぐ別れるのに、あの日は『あれ、まだ手を振ってるよ』って(妻が)言うからな、見てみたら、車が角を曲がるまで手を振ってたんじゃ、まさかと思ってな」。

みんなをびっくりさせたけど、無事だった時計屋さんのおじちゃん。病院から帰ってきたところに駆けつけた兄さんに「これからも、オレを頼むぞ…」と言ったけど、翌日まったく覚えていないおじちゃん。このエピソードも本当にかわいくて私は笑ってしまう。無事で良かった、も〜!気をつけてよ!?だけど、かわいくて笑ってしまう。

兄さんもおじちゃんが大好きだし、同級生のおじちゃんも、おじちゃんの奥さんも、もちろん私も、みんなおじちゃんが好きだ。


めずらしく、奥さんとご飯を食べに来たおじちゃん。

お店に入るなり「大谷が、ドジャースに決まったな!背番号17!」と言っていた。普段大谷くんの話も、野球の話もしないのに、どうしたんだろう。つい今しがたまでついていたテレビでそんなに盛り上がっていたんだろうか。

私は奥さんと会うのがはじめてだった。おじちゃんから聞いた話によると、「向こうがすごく好きになってくれたから、付き合って、結婚した」とのことだった。キレイで、かわいらしくて、上品な奥様。若い頃から、こんな素敵な奥さんが大好きになるおじちゃんだったんだろうなぁ。

おじちゃんと奥さんは楽しくご飯を食べて、少食なおじちゃんにはめずらしく、最後にお皿いっぱいのお寿司を食べるとのことだった。

「実は今日は誕生日での」
「ええっ!そうだったんですか!」

「そう!それなのに、この人、忘れているからの!ここに食べに来た」笑

話を聞くと、前日は「今日で70最後だね」と話していたのに、当日になって奥さんはおじちゃんの誕生日をすっかり忘れてしまったそう。

「だからの、『今日は何日だっけな〜』とか、『大谷の背番号は17だね、17を逆にしてみると何になるかな〜』とか言ったのに、全然気づかないで」

カワイイな!

ああ!だからお店に入ってきたとき大谷くんの話してたんだ!!笑
17、…71、そっか今日で71歳になったんだな!
いや〜、おじちゃん、それじゃわからないよ〜〜!笑

奥さんは笑う。

「『晩ごはんは何がいいかな』と言うからの、オレは鍋が食べたいと思ってそう言ってみたら『え〜〜〜』って!面倒くさそうにしてから!!」笑

「すっかり忘れちゃって笑」
奥さんほんとに忘れちゃってたんかいっ!笑

「『じゃあ食べに出よう!今日は寿司じゃ!お祝いだから!』と言ったら『なんのお祝い?』って!そこでやっとよ!やっと思い出した」笑

カワイイな!!


おじちゃんはゆっくりお寿司を食べて、いつもよりずっと満腹になって、「いや〜、最高の誕生日になった」と何度も言って、帰っていった。奥様もニコニコ「今日は、私が払わないとね」とお会計をして、帰っていった。

本当にかわいくて、本当に微笑ましい、時計屋さんのおじちゃんエピソードなのだった。

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